パネルディスカッション管理組合団体代表・弁護士・学識経験者が持論を展開 「未来」創造へ求められる 住宅=次世代に引き継ぐ 「公共的資産」とし再定義を

  • 5面
  • 2025年5月5日

 登壇した5氏。上は藤木会長、中左は戎弁護士、同右は浅見教授、下左は吉原准教授、同右は砂原教授

 藤木賢和・NPO法人かながわマンション管理組合ネットワーク会長…管理組合の主体性からマンションを捉える

 「マンション管理の主体はあくまで管理組合にある」と強調。住環境の維持には建物の適切な管理と良好なコミュニティーの両立が欠かせず、特に住民同士のつながりが管理運営を円滑にすると述べた。

 役員不足の背景には高齢化だけでなく「面倒、関わりたくない」といった無関心や交流不足があると分析。こうした状況を踏まえ、管理組合の主体性を損なう恐れのある外部管理者方式ではなく、標準的な管理形態を存続させた上で、外部の専門家が役員等になって支える側面支援方式こそが有効だと訴えた。

 自立的管理を支える体制の整備拡大こそが今後の鍵になるとした。

 戎正晴弁護士…区分所有者の責務からマンションを捉える

 「今一番考えなければいけない問題は、巨大な廃虚として街中にマンションがたくさん残るのではないか。そういう事態を防がないといけない。法改正はその一歩ではあるが、それだけで片付くものではなく、課題は多い」と語った。

 マンションは「社会的資産」ではなく「個人資産」であり、修繕や解体などの責任はあくまで区分所有者が負うべきものだと主張。

 今回の法改正では、建て替え以外にも解体や敷地売却などの「終活メニュー」が整備された点を評価する一方、積立金が依然として修繕を前提としたものにとどまり、解体費用の備えが不十分だとした。責任を果たせないケースも想定し、今後は行政や民間の開発業者と連携した責任の分担も必要だと指摘した。

 浅見泰司・東京大学教授…都市政策からマンションを捉える

 マンションの建て替えが進まない要因として合意形成の難しさを挙げた。

 マンション建て替えの法的緩和には地域貢献が不可欠になるとし、防災施設や集会所の設置など公共性を持たせる仕組みが重要だと語った。

 また、空き家等特別措置法がマンションに適用しにくい現状にも触れ、今後はマンション向けの新たな制度設計が必要だと述べた。

 吉原知志・大阪公立大学准教授…都市法からマンションを捉える

 民法中心の現行マンション法制には限界があると指摘。都市計画と連携した「都市法」としての再構築を提案した。マンションを「社会資産」と捉え、建て替えや管理を個人の自由に委ねるのではなく、地域全体の利益に基づいた制度設計が必要だとした。

 具体的には地域の土地利用方針に沿って建て替えや敷地売却の判断を行う「空間管理団体」の仕組みを設け単なる所有者の合意ではなく、公共的な意思決定として制度的に位置づけるべきと訴えた。

 砂原庸介・神戸大学教授…住宅政策からマンションを捉える

 マンションを私的財産であると同時に社会的資産と位置づけ、その管理運営には「政治性」から目を背けず向き合うべきだと述べた。

 管理組合が何を目指すのかという「目的」を明確にしないと、専門家に仕事を任せても適切な管理は行えないと指摘。意思決定の仕組み=ガバナンスを築くには、適切な目的を定め、それに基づき行動や責任を明確にする政治的なプロセスが必要だとした。

 また、地域との調和には自治体の関与が不可欠で、住宅を次世代に引き継ぐ公共的資産として再定義することが重要だと述べた。 ◇

 発表後はさまざまなテーマで5人が議論した。「社会的資産」の捉え方に対する議論もあった。

 佐藤弁護士

 改正法はまだ成立していないが、もう少し先を見据えて、社会的資産とは何なのか、その根拠となる思想は何なのか、というところから議論を深めたい。そもそも社会的資産の捉え方がそれぞれ違って難しい。例えば戎先生からは社会的資産ではなく、所有者責任で全て説明すればいいという話もあった。

 吉原准教授

 所有者責任は私の考えでも当然ある。都市法としてのマンション法や社会的資産としてのマンションという言い方をしたが、社会資産だからどんどん自治体からお金が出せるという話ではない。

 所有者責任というと伝統的な民法の理屈からすると「管理しない自由」もあるという話になってしまうが、やはり「頑張らない自由」はない。所有者が頑張って責任を果たすべきところで放置するのが一番の問題だということが言いたかった。

 戎弁護士

 責任のうち費用負担責任とか土地工作物責任は私法上の責任、もう一つ公に対する適正管理責任というのは関係する条文で言えば適正化法の第5条。私的財産だけど自由にさせていると外部不経済が生まれてとんでもないことになる。だから国は適正な管理指針を、地域は推進計画を定め、それらにのっとって管理組合はちゃんとしなければいけないと書いてある。

 要するに行政が個人資産の管理についてこのレベルまで絶対やって下さいということを定めているということ自体が責任の根拠になると考えている。

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