長友氏 課題の解決には至っていない部分 中野参考人 規約よりも立法でカバーして

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  • 2025年5月15日

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 長友氏

 標準管理規約が改正されたら一定程度の実務的な対応で実効性が担保されると思うが、旧区分所有者は義務を負わない。課題の解決には至っていない部分があるのではないか。

 沖野参考人

 規約の変更に関わることもできなかった人に対してその人の権利を強制的に奪う内容のものに拘束をかけるというのは無理だろうと思う。そうしたときに「実効性がどうか」というのは、その限りでは、減じることになったとしても、そちらを優先すべきだということ。

 中野参考人

 まさにそういう場面があるので「当然承継」という考え方を、この立法の中で改正すべきだと考えている。

 自分の所有権を譲渡するのであれば付随して損害賠償請求権も一緒に処分されるという考え方は昔からの民法理論にもある。そのような確認規定だという考えで改正をすれば今困っている住民の皆さんも救われると思っている。

 鳩山氏

 ルールを作る上では、できるだけ現実に即した合理的なルールを作るのが重要だということを踏まえると、区分所有権と共用部分の損害賠償請求権は分けるよりも不可分と考える方が合理的なように思われたが、なぜこれを分けるべきなのか説明をお願いしたい。

 沖野参考人

 例えば共用部分を壊されて、それに対して不法行為で損害賠償債権を持つということであれば区分所有者全員について不法行為によって損害賠償債権を持つということだが、現在議論しているのは各人が契約をして、売買契約によって目的物が適合したものをもらえるという地位が、約束した通りに履行されていないことに伴う損害賠償債権なので契約上の地位によって発生するもの。

 そのことと、所有権、物権レベルでの区分所有あるいは共用部分についての共有関係というのは、そもそも権利関係としては性格が違うものということになる。これをどう連動させていけるかというのが今問題になっているわけだが、出発点は別である、というところからスタートしている。

 神崎参考人

 契約に基づく請求権でも物権移動によって移転することはいくらでもある。

 例えば区分所有マンションにおいては区分所有権を移転すると敷地権も当然に移転することになっている。分離処分は禁止されている。とすると契約上の権利が物権変動によって当然移動する例というのは区分所有法が予定している。それは区分所有法の世界においては特別なことではないと考えている。

 欠陥住宅訴訟では一次的に契約責任を追及し、二次的に不法行為責任を追及することが時効の関係であり得るが「当然承継」なら契約責任であろうが不法行為責任であろうが請求権者は単一。同一。変わることはない。

 沖野参考人がおっしゃるような立場によれば不法行為責任を追及する場合には新区分所有者、契約責任を追及する時には旧区分所有者と、法律構成によってばらばらになってくる可能性がある。こんな訴訟成り立たない。極めて非現実的な案と言わざるを得ない。

 管理規約による対応も極めて非現実的で、標準規約を知らない管理組合が圧倒的に多い現実がある。

 赤羽氏

 「当然承継」を入れるべきだという意見は良く分かるし、そっちの方が分かりやすいなと思ったりもするが、さはさりながら標準管理規約の改正で解決をしていくんだということがこの法改正の方向性だと思っているが。

 中野参考人

 標準規約がどの程度普及しているのかについては非常に低いというデータもあると伺っているので、それよりもしっかりと立法でカバーしていただいて今困っている人たちの救済をしていただく必要があるかと思っている。

 沖野参考人

 標準規約の改正で全てを対応できるということでは必ずしもないと思っているが、しかしそれによる対応というのはかなりのところ図れると思っているし、標準管理規約という形でこれからの区分所有の在り方を法律の下で最良のものにしていくということですから(普及率が)低いということよりは、いかに高めていくかにご尽力いただくというのがよろしいのではないか。

 たがや氏

 改正法案が成立して損害賠償請求権が旧区分所有者に残ってしまう問題が現実化した場合、例えば5年後に改めて「当然承継」案で法改正が行われたとしても個々の元所有者に損害賠償請求権等が残ってしまう状態が固定化してしまうなどの問題があると思うが、どう思うか。

 神崎参考人

 今回の改正案が通ってしまうと「そうなの?

 自分(旧区分所有者)たちにも(請求権が)あったの?」ということを皆さん知ってしまう。そうするとさかのぼって、売って出てしまった人たちが「新区分所有者が賠償を得ているんだったら自分にこそ権利があるんじゃないの?」と権利行使するかも分からない。

 堀川氏

 「別段の意思表示」の問題点について改めて見解をお聞きしたい。

 神崎参考人

 「別段の意思表示」以前に、共用部分の瑕(か)疵(し)に対する損害賠償請求権が共用部分の共有持分権と同様の性質を持つのに区分所有関係から離脱した旧区分所有者に帰属を認めること自体が区分所有法15条1項の「随伴性」や15条2項の分離処分の禁止に反するという前提で、「(損害賠償債権が個々の区分所有者に)分属している」ということ自体が間違っているんじゃないか。

 管理者が一元行使すべきものを「別段の意思表示」によって個別行使を認める法律になるので、自己の持ち分の請求権を別途に個別行使することを認めるのは共用部分の分割請求を認めることに等しいので区分所有法の大前提に反する。

 「別段の意思表示」は訴訟提起後でも可能とされているので、和解を阻害するだろうと考えられる。

 マンションのような大規模建物の場合、修補による和解の方が現実的なケースもあり得るが、旧区分所有者は瑕疵補修では何ら得るところがないために業者が瑕疵を認めて瑕疵修補を申し出た途端に「別段の意思表示」をして金銭賠償を要求する可能性が高い。

 堀川氏

 改正案の26条の5項では「旧区分所有者への通知」についても定めている。通知に関して意見を聞かせてほしい。

 神崎参考人

 戸数の多いマンションで転売が多数生じている場合、多数の旧区分所有者に通知をすることは非常に困難であり場合によっては事実上不可能となる。

 堀川氏

 公示による通知も今回認められるということになるが、こうした措置では不十分だとお考えか。

 神崎参考人

 公示送達申請手続きには手間とコストが掛かる。要件が非常に厳格で住んでいないことがはっきりしないといけない。

 福島氏

 私なら、明確に損害賠償請求権が元の所有者にあると分かった途端にどういうことをするかと言えば、元の所有者から損害賠償請求権を安価で集めて、そのうちいくつかは必ずおカネが発生するでしょうから、そのビジネスをやりたいな、って。

 それができるということを明確にしているのが今回の法改正かなと思っている。

 「当然承継」をやるような法案やったら、どういう不都合が、誰に生じるのか。「当然承継」を否定しなければならない大きな利益の損失ってどこにあるのか。

 沖野参考人

 旧区分所有権者がもともと持っているものを強制的に移転させられるということに対してどういう評価を下すのか、ということだと思う。

 どの方策も万全だとは思わないが、それぞれの中でどういった別の手当てによって実現が図られるのかの、その考量だと思う。

 福島氏

 最後は政策判断、われわれ立法府の判断の部分であると考えてよろしいか。

 沖野参考人

 最終的にはどういう制度をつくるかというのは、もちろん立法府でお決めになること。

 政策判断というのはもちろん政策判断でいろいろな制度をつくっていくわけですが、その政策判断の時に「権利保障」も非常に重要でそういった点を考慮した上で制度設計をされているということだと理解している。

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