会議室から逃亡した男(上)。もう1人は警察の任意同行に応じた(下)【写真は関係者提供。一部を加工しています】
大規模修繕工事の談合疑惑で揺れる中、今度は首都圏有数の大型マンションで大規模修繕工事を巡る事件が発覚した。ある施工会社の社員2人が区分所有者になりすまし、修繕委員会に公募により委員として参画していたことが判明。委員会開催の当日、1人は建造物侵入容疑で逮捕され、もう1人は会議室から逃亡した。利益誘導が疑われる事案で、土地の所有者になりすまして売却を持ちかけ多額の金銭を騙し取る「地面師」をほうふつとさせる。管理組合は告訴の方向で動いている。
修繕委員になりすました、2人の議事リードで、ある設計事務所に決定、4月の総会で意見付き(談合報道を受け契約前に決定プロセスを確認する)で承認された。それを受けて修繕委員会で詰めの協議が始まった中で、情報筋から重要な事実が寄せられ、5月17日の委員会でなりすましが判明、冒頭の事態に至った。
委員会は7人で構成されていたが、誰も気が付かず、管理会社も同じだった。
管理組合関係者は、なりすまし2人が所属する施工会社が、15億円超と思われる大規模修繕工事に2次、3次下請けで加わることを目的とした詐欺未遂事件と見ている。
管理組合関係者によると設計事務所コンサル募集に10数社が応募、書類審査で5社に絞られ最終的に1社に決定する。書類審査の比較表作成プロセスを中心的に引き受けたのが修繕委員会の当日に会議室から逃亡した1人。その比較表だが本来○であるべきところが×となっている箇所が散見されるなど疑問点も見られるという。
「なりすまし」一人の逮捕ともう一人の逃亡劇で、「なりすまし」に加担した住民がこれまでの経緯を全て明らかにし、警察に通報後の事情聴取に応じている。
それによると「なりすまし」加担のきっかけはメールボックスに投函(とうかん)された、調査会社を名乗る「覆面調査員募集」のチラシだった。
グルメや美容、アパレルなどの良しあしなどを調査する「ミステリーショッパー」のアルバイト。ここに「学生時代にも経験したアルバイトで、子供が小さいので家にいてできる」と「なりすまし」に加担した住民の妻が応募。
だが、実際に面談して依頼された内容は自分の住むマンションの覆面調査。築年数から大規模修繕工事が近くに迫っている。多額のお金が動くため管理会社の上層部から不正がないか修繕委員になって動きを監視してほしい、という依頼だった。
そのために、管理組合に対して修繕委員の公募を促す文書(調査会社が作成)を投函し、実現したら修繕委員に夫の名前で立候補してほしい。年格好の似た人間は当社が出す。ただし、会議に参加するだけで特に何もアクションを起こさない。マンションに入館するIDキーをいただきたい。管理組合、修繕委員会からの通知はその都度送ってほしい。
主なやりとりは全て通信アプリ「LINE」で行われていた。LINEのやりとりは警察に提出されている。アルバイト代として毎月ギフト券を受領していた。
なお、調査会社の東京オフィスのメールボックスには逮捕された男の名前が書かれている。
「なりすまし」2人の連携による「利益誘導」の疑いは濃厚だ。
この男性は、区分所有者の息子と名乗って立候補したようだが、全くの別人で本人確認はどのように行われたのか疑問が残る。
修繕委員会の当日に逃亡した1人からは逃亡直後に住民の妻に電話が入り、調査会社からもLINE通知があったが所用で出られなかった。口裏合わせの連絡だったと予想される。その後、住民の妻が折り返したが連絡は取れていない。
逮捕された1人は5月19日に検察に送致、10日間の勾留が認められ本格的な取り調べが始まっている。逃亡した人間の面は割れており、また、乗ってきた大阪ナンバーの車も確認されている。身柄の確保は時間の問題と思われる。
他のマンションでも同様の手口による大規模修繕工事受注画策が進められている疑惑があり、事件の全貌が白日の下に晒されることが期待されている。今後も取材で明るみになった事実は続報する。


