100年間の不足額 369億円 長寿命化等モデル事業成果報告会 24年度中心に10事業紹介 国交省 軀体耐用年数評価に基づき 改修・建て替え 再生方針検討

 事例報告会の様子。国交省によれば会場聴講には40人、オンラインには122人の申し込みがあった

  国土交通省は10月9日、東京都・四ツ谷の主婦会館プラザエフでマンションストック長寿命化等モデル事業の成果報告会を開いた。2024年10月に続き3回目。当日は国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)付の歌代純平企画専門官が基調講演。20年度の制度創設から今年度第2回公募終了時点までに採択された105事業のうち、24年度採択事業を中心に10件の成果発表が行われた。

  この日発表された10事業の詳細は同日、一般社団法人マンション再生協会のホームページで公開。後日報告会の録画配信も行う。

 ◇

  24年度第1回募集で先導的再生モデルタイプ(計画支援)に採択された東京都品川区の「マンション五反田」(1979年竣工。14階建て194戸)。提案者は東急コミュニティー。発表者は同社の柴田篤氏。

  耐震性不足のマンションにおける初動期の再生方針を総合的に整理。一般財団法人日本建築センターの軀体耐用年数評価に基づく改修・建て替えの検討を行った。

  「どちらが資産価値向上が期待できるか・経済合理性が高いか」という点に判断軸を絞り、段階的に議論を進めた。

  長寿命化の目標期限設定と実施根拠確認のため行った軀体耐用年数評価では、適切な補修と計画修繕を実施する前提で現状のコンクリート中性化深度等から推定耐用年数100年以上という結果に。

  これを受け高機能材施工による修繕周期の延伸、耐震改修・漏水対策工事の両立を目的とした定額制スケルトンリフォーム商品の検討を行った。

  長期修繕計画もカスタマイズ。計画期間を30年から100年、修繕周期を12年から18年に延伸。通常長計にはない耐震改修、専有部漏水対策、終末期対応の解体費も追加、建設物価指数を参考にインフレ率(2・8%)を設定した。理論値では100年間の資金不足額は369億円に上った。

  建て替えは、建替え円滑化法に基づく容積率の緩和特例を検討。計画案では評価額の伸びが予想され、中古市場価格の約1・4倍の資産価値向上につながる可能性が高いという結果が出た。

  どちらを選択するかを問うアンケートの回答は伯仲しており、「現実的に受け止めていただけていない状況」(柴田氏)。

  区分所有者が「自分ごと」として捉えられるよう、マンション管理適正評価制度などを参考に施策を再提示し、意向確認を実施する予定。来年4月の再生方針決議を目指す。

 ◇

  20年度第1回募集で排水管たて管再生、22年度第3回募集では1階床下排水管改修で工事支援型(改修)に採択された東京都杉並区の「秀和高円寺レジデンス」(1971年竣工。8階建て209戸)。提案者はジャパン・エンヂニアリング。発表者は同社排水管再生事業部の青木達也氏。

  たて管改修では設置状況に応じた工法で工事ができる審査証明取得技術(インパイプフェニックス工法)を提案。継ぎ手を含む床スラブを貫通部は更生、その他の配管は耐火二層管に更新した。上層階と下層階に区分し同時施工することで大幅な工期短縮を図った。

  1階床下配管改修では、最大42戸に長時間の排水制限が伴い制限時間の短縮が課題になったが、たて管改修時に使用した、脱着が容易なストラブ継ぎ手を生かし、フレキホースでバイパス管をつくり仮設排水ルートを確保。朝夕の排水制限時間を平均83分、42分にそれぞれ短縮できた。

 ◇

  24年度第2回募集で管理適正化モデルタイプ(計画支援)に採択された東京都文京区の「セレニティ湯島」(1983年竣工。7階建て11戸)。提案者は佐藤マンションサポート。発表者は同社の佐藤稔社長。

  これまで足場を設けた修繕の実績がなく修繕積立金も大幅に不足。管理規約も新築当初のままだった。初の大規模修繕実現へ資金計画等と管理適正化に向けた検討を行った。工事事業は25年度の管理適正化モデルタイプ(改修工事支援)に採択されている。

  工事は支出を抑えるため施工箇所を細分化し優先順位を検討することを提案。細分化で30年間の積立金負担額を約1000万円減額できると試算した。

  収益性改善のための施策として駐車場の新設等を提案し問題意識を共有。ソフト面では外国人居住者や賃貸率の高さを踏まえ管理組合運営の透明化を目的としたウェブ窓口の開設、AIによる情報の多言語化を提案した。

  名簿更新制度の整備、管理規約・使用細則の見直しも行う。

指定の固定ページが見つかりません。